206 研究系及び研究施設の現状
繁 政 英 治(助教授)
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A -1)専門領域:軟X線分子分光、光化学反応動力学
A -2)研究課題:
a) 内殻励起分子の光解離ダイナミクスの研究
b) 配向分子からのオージェ電子角度分布測定(繁政) c) 高性能斜入射分光器の開発
d) 二次元画像法を用いた高効率同時計測装置の開発(下條助手)
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) オージェ終状態と解離イオンの相関,特に内殻電子の局在性により,ある原子サイトの内殻電子を選択的に電離 した後に期待される選択的な結合の切断の原因を直接検証することは興味深いテーマである。この本質的な原因 は何かを探るために,(C H3)6S i2O 分子を対象として S i2p-V V ,C 1s-V Vオージェ電子と解離イオンの相関を観測し た。サイト選択的な結合の切断が起こるためには,オージェ終状態に於ける二正孔が切断される結合に局在化し, しかも振動緩和を通じてエネルギーが再配分される前に速やかに解離する必要があると考えられる。測定結果か ら,価電子二正孔状態の内,最もエネルギーの小さい状態を選んだ場合,内殻電離サイトに依存した解離の選択 性が最も高くなり,それ以外の電子状態では明確なサイト選択性が見られない事が判明した。さらに,高分解能 電子分光のデータから,内殻電離サイトに依存した二価イオン状態が最低束縛エネルギー領域に形成される事が, サイト選択性の原因であると結論付けられた。
b) 観測される二次応答スペクトルの高分解能化及び理論計算の進歩により,共鳴オージェ電子放出過程については, 共鳴励起と脱励起過程とを分離して記述できないという認識が広まった。一方,通常のオージェ電子放出過程の 場合には,先ず内殻正孔状態が形成され,引き続いてオージェ電子放出過程が起こる二段階過程と考えられてき た。ところが,C O 分子の炭素 1s 電離領域において,配向分子からのオージェ電子の角度分布を測定したところ, 炭素1s電子がσ対称性の波として分子を離れる場合とπ 対称性の場合とではオージェ電子の角度分布が全く異な る結果が得られた。内殻電子のイオン化しきい値近傍で光のエネルギー(つまり光電子の運動エネルギー)を変 化 さ せ る と , 光 電 子 と オ ー ジ ェ 電 子 の 運 動 エ ネ ル ギ ー と ス ペ ク ト ル プ ロ フ ァ イ ル が 変 化 す る 事 は P C I (P ost C ollision Interaction)効果として知られているが,角度分布の中でその影響らしきものを捉えたのは世界初である。 このことは,通常のオージェ電子放出過程もまた完全に独立した二段階過程ではない事を示唆しているものと思 われる。
c) 近年のシンクロトロン放射光に関連する分光技術の進歩は目覚ましく,通常の偏向電磁石部からの放射光でも,炭 素,窒素,酸素を含む分子の内殻励起状態の振動分光が比較的容易に行える,いわゆる高分解能斜入射分光器が 世界各地の放射光施設で次々と建設されている。しかし残念ながら,現在の UV S OR には,200 eVを越える領域 でこの種の実験を可能にする高性能斜入射分光器が存在しない。内殻励起分子の解離ダイナミクスの詳細の解明 のためには,振動分光が可能な高性能分光器が必要不可欠である。90 ∼ 600 eV のエネルギー範囲で,分解能 5000 以上を達成するように,不等刻線平面回折格子を用いた分光器のデザインを行った。
d) 内殻励起状態の崩壊ダイナミクスは,分子解離とオージェ電子放出との競争過程であるという間接的な証拠が二
研究系及び研究施設の現状 207 次応答スペクトルの解析から得られている。しかし,反結合性の強弱と競争過程の関係や内殻電離状態の場合は どう変わるのかなど,内殻正孔状態に起因する解離ダイナミクスではまだまだ不明な点が多い。これは,原子核 の変位に対しては,より敏感で直接的情報が得られるはずの解離イオンのベクトル相関測定や,電子とイオンの ベクトル相関測定から解離ダイナミクスを議論出来ていない事に起因すると思われる。我々は,解離イオン種間 のベクトル相関測定の実現を目指して,新しい計測システムの開発を行っている。二次元検出器の導入は急務で あり,本格的導入に向けたテスト実験を行っている。(下條助手)
B -1) 学術論文
A. A. PAVLYCHEV, N. G. FOMINYKH, N. WATANABE, K. SOEJIMA, E. SHIGEMASA and A. YAGISHITA, “Dynamic Properties of N and O 1s–1σu* Shape Resonances in N2 and CO2 Molecules,” Phys. Rev. Lett. 81, 3623-3626 (1998). T. HAYAISHI, T. TANAKA, H. YOSHII, E. MURAKAMI, E. SHIGEMASA, A. YAGISHITA, F. KOIKE and Y. MORIOKA, “Post-collision interaction effects of threshold photoelectrons in Kr L3-shell photoionization,” J. Phys. B 32, 1507-1513 (1999).
J. ADACHI, N. KOSUGI, E. SHIGEMASA and A. YAGISHITA, “Vibronic coupling and valence mixing in the 1s → Rydberg excited states of C2H2 in comparison with N2 and CO,” Chem. Phys. Lett. 294, 427-433 (1999).
E. MURAKAMI, T. HAYAISHI, Y. LU, Y. MORIOKA, F. KOIKE, E. SHIGEMASA and A. YAGISHITA, “Post-collision interaction effects induced by Auger cascades following Xe L1-shell photoionization,” J. Electron Spectrosc. 101-103, 167- 171 (1999).
T. GEJO, K. OKADA, T. IBUKI and N. SAITO, “Photodissociation of Ozone in the K-edge Region,” J. Phys. Chem. A 103, 4598-4601 (1999).
B -4) 招待講演
E. SHIGEMASA, “Photoelectron Angular Distributions from Oriented Molecules,” LURE, Orsay (France), January 1999. E. SHIGEMASA, “Angular Distributions of Photoelectrons from Fixed-in-space Molecules as a Probe of Shape Resonances,” University of Freiburg, Freiburg (Germany), February 1999.
繁政英治 , 「配向した分子からのオージェ電子の角度分布」, 日本物理学会 1999 年秋の分科会 , 盛岡 , 1999 年 9 月 .
B -6) 学会および社会的活動 学会の組織委員
繁政英治 , 第 13 回日本放射光学会年会放射光科学合同シンポジウム組織委員および実行委員(1999-). 学会誌編集委員
下條竜夫 , 日本放射光学会誌編集委員(1999-).
C ) 研究活動の課題と展望
他施設での研究とは異なる独自性を出すために,我々は内殻励起状態の寿命幅以下の光分解能により実現される 共鳴X線散乱過程における内殻励起状態の崩壊ダイナミクスを詳細に研究する事を目指す。このような実験条件 下では,多原子分子でもある程度振動モードを選択励起することが可能であり,共鳴オージェ電子と生成イオン
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との同時計測により,内殻励起後の解離過程における原子移動(分子振動あるいは分子変形)と結合切断との関 係の詳細を解明出来ると考えている。また,直線偏光に対する分子の空間的な配向や原子核の運動が,電子放出 や解離過程に対してどのように影響するのか,そのダイナミクスの詳細の解明を目指した研究を展開して行きた い。これらの研究をUVSORで実現するためには,高性能分光器の建設と二次元検出器内蔵の高効率同時計測装置 の開発が必須である。しかし,このような大型装置の開発・立ち上げにはかなりの時間が必要なので,UVSORに 既存の設備を活用した予備的な実験を中心に,国内外の放射光施設での共同研究も当面は継続して行く方針であ る。
*)1999 年 5 月 1 日着任